いろどり


一覧へ戻る

2022.01.06 取材

ブランド鯖『釧鯖せんさば』を見極める

インタビュー

株式会社マルサ笹谷商店
専務取締役 笹谷 剛

2022年1月初旬。日の出前の釧路漁港は凍てつく寒さに包まれていた。そこに現れた、想定通りの大柄な体型と想定外の優しい笑顔で取材を受け入れていただいたのは、笹谷商店の笹谷専務でした。

釧路市は石炭、製紙・パルプ、漁業の3大基幹産業と共に発展してきましたが、炭鉱業は縮小していき、製紙工場が閉鎖となり、今後重要な役割を果たさざるを得ないのが漁業だと思うのですが、釧路市最大と言って良いほどの水産加工会社「笹谷商店」としては今後この地域をどう守っていかれるのでしょうか。

「釧路では、1970年代にはだいたい100万トンほどの水揚げがありました。その時は、底曳船に乗れば一般の高校新卒者の人より3倍は稼ぐことができて羽振りがよかったんです。その後、魚が獲れなくなってしまう時代がやってきて若い人たちは漁業からどんどん離れていってしまいました。この6~7年にかけて水揚げ量は少しずつ回復してきてはいるのですが、以前と違い獲れる魚もだいぶ変わりました。釧路では水産加工業者の減少も大きな問題となっています。昔は100万トンの水揚げにも対応できていましたが、今の釧路には10万トンや15万トン揚がっただけでも処理しきれる会社がないんです。」

2020年の水産白書によると漁業従事者は一貫して減少傾向にある。釧路の水産加工会社は2005年には94社あったものが、2019年には68社まで減少している。漁獲量の減少に比例して漁業従事者の減少も大きな課題となっている。

「工場も人も減っている中で私たちとしては、釧路の資源をどう有効活用していくかということを考え、釧路でも水揚げができるように30億円くらいかけて新しい工場を作り、色々な魚の受け入れ態勢も整えました。今では私たちも多くの従業員を抱える会社になりました。そうすることで、取引業者が増えていき、雇用も増やしていければ地元に少しでも貢献できると思っています。新しい加工技術の向上や人材の育成をして釧路の企業が頑張っていかないといけないんです。そのために投資も必要だろうと考えて、私たちは動いています。」

笹谷専務は、魚が取れなくて、人がいないと言っているのにさも当たり前のように数十億の投資の話をしてくれたが、そこには先代からの堅実な経営方針がある。漁業が儲かった時代に散財をして駄目になった会社はたくさんあった。先代の会長は余計なことにお金を使わず、工場に設備投資をして、魚と堅実に向き合った。その結果、今では1000人以上の従業員が携わるグループ会社に成長した。地場にこだわり、自分たちの目で魚を買い付け、自分たちの目の届く範囲で商売をするというのが先代からの笹谷商店のこだわりである。

温暖化の影響で獲れる魚が変わってきている中、ブランドをどう守っていますか?

「釧路の近海は親潮と黒潮が混ざってプランクトンが大量に発生するので魚がたくさんやって来るんです。その魚たちはプランクトンと一緒に北上してきて、釧路の近海は水温が低いので脂のりがぐんと良くなります。脂がのっている魚は、切った断面のお腹側に白い脂肪みたいなものがたくさん入っているのですが、ここで揚がる鯖はお尻の方までぎゅっと太い ―『脂のり』。」

「釧路で鯖の水揚げがあるのは、10月の5回〜10回くらいです。他の会社では違う時期に獲れる鯖を使って安く缶詰を作っているところもありますが、うちの買い付ける鯖は10月に獲れる釧路のまき網船のやつに絞っています。この鯖たちは小さいサイズでも脂肪率は20%以上になります。だから脂のりが良くてクオリティーが高い。脂のりの良い魚は何を作っても美味しいからね。」

鯖の加工工場には、お眼鏡にかなった丸々と太った1kg前後の大きな鯖がどっさりと入っていた。限られたチャンスの中で仕入れた最上の鯖は『鮮度が良いから良い』というよりも『いい時期のいい原料をいい状態』でいつでも提供できるように冷凍しておき、1年中美味しく食べられることを強みとしている。この時期に買付けて冷凍する質の高い鯖を『釧鯖』としてブランド化しており、寸分の妥協をしない先代からの目利きの業で『釧鯖』を作り支えているのだ。

環境への取り組みとして対応していることはありますか?

他の会社は欲しいサイズのものしか仕入れなかったりするのですが、うちの会社は上から下まで全てを買い付けた上で無駄なく活用することができます。それもまたうちの強みのひとつなんです。

自社のみで魚を買い付けて、魚を加工して、残渣からミールを作ったりするという点においては、多分私たちが日本一だと思います。

工場では、鯖の切り落とされた頭や取り出された内臓などの残渣をフィッシュミールへと再利用している。そして、加工の仕方も多種多様で様々な大きさの鯖は、それぞれ缶詰をはじめ、塩鯖や多くの加工品に加工されていく。また、加工に向かない小さいサイズの魚、市場で売れなかった魚なども買い取って養殖用のフィッシュミールにしている。だから廃棄業社に渡ることが一切ない。これだけの規模の買付けを行っている中で、一切、無駄を出さない取組みをしている。

最後に笹谷商店の強みをお聞かせください!

道東にある笹谷商店は、納期や運送では、本州の業者と比べても勝てません。ですが『釧鯖』というブランドにこだわりを持ち、金額ではなく、全国のお客様に『釧鯖』だからと選んでもらえ、リピーターになってもらえる良い商品を作っていきます。

〈インタビュー後記〉
早朝の取材、初セリ、工場、販売店、包み隠さず全てを紹介していただいた笹谷専務に感謝するとともに、先代から続く経営方針とそれを受け継ぎ、荒波のように変化の大きい釧路の漁業へ対応し、海からいただく恩恵は1つも無駄にせず、地域を盛り上げながら釧路の極上商品を全国に届けようと邁進する笹谷商店が、この先も釧路の漁業を支えていくことは間違いないだろう。

加藤 貴志

株式会社マルサ笹谷商店

〒084-0917 北海道釧路市大楽毛8番地の19
TEL:0154-57-3594 / FAX:0154-57-5672

ページトップ